朝、玄関で靴を履こうとして片足立ちになった瞬間にふらつく。こたつから立ち上がるときに、ひざに手をつかないと腰が上がらない。こうした小さな変化は、体の奥にあるインナーマッスル(深層筋)が弱ってきたサインと言われています。
65歳以上の約3人に1人が1年間に1回以上転倒するとされ、特に冬は厚着で動きにくくなるうえ、日照時間が短く家にこもりがちになります。とはいえ、激しい運動は必要ありません。椅子に座ったまま1日10〜15分、週3日から始められる方法があります。
この記事でわかること:
- 転倒とインナーマッスルの関係、冬に転びやすくなる理由
- 椅子を使った安全なトレーニング6種目のやり方と回数
- 週あたりの頻度と、1か月の進め方の目安
- 膝・腰を痛めないための注意点と中止の目安
- 自宅トレーニングを続けやすくする道具の選び方
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転倒とインナーマッスルの関係を知る
インナーマッスルとは、体の表面ではなく骨や関節の近くにある筋肉の総称です。転倒予防の観点で特に注目されているのは、次の4つ。
| 筋肉の名前 | 場所 | 主な役割 | 弱ると起きやすいこと |
|---|---|---|---|
| 腹横筋(ふくおうきん) | おなかの奥をコルセットのように一周 | 体幹を安定させる | 立ち上がりでふらつく |
| 多裂筋(たれつきん) | 背骨に沿った深い部分 | 背骨を1つずつ支える | 姿勢が丸まり重心が前に出る |
| 腸腰筋(ちょうようきん) | 背骨から骨盤を通り太ももの付け根へ | 脚を持ち上げる | すり足になり段差につまずく |
| 中殿筋(ちゅうでんきん) | お尻の横 | 片脚立ちで骨盤を水平に保つ | 歩くと体が左右に揺れる |
たとえば腸腰筋が弱ると、足が上がっているつもりでもつま先が床から1〜2cmしか離れず、カーペットのふちや敷居に引っかかりやすくなります。家の中の転倒が意外と多いのは、この影響が大きいためでしょう。
冬に転びやすくなる3つの理由
- 体が冷えて動きが鈍る: 朝の室温が10度前後だと、関節がこわばり一歩目が出にくくなる
- 厚着と重いコート: 足元が見えにくく、腕の振りも小さくなる
- 活動量の低下: 外出が減り、2〜3週間で脚の力が落ちたと感じる人も少なくない
消費者庁の資料では、高齢者の転倒事故の約半数が住宅内で起きていると報告されています。屋外の凍結路面だけでなく、暖かい家の中こそ油断しやすい場所です。
椅子でできるインナーマッスルトレーニング6種目

ここで紹介する種目は、どれもひじ掛けのない安定した椅子を使います。キャスター付きの椅子や折りたたみ椅子は避け、椅子の背を壁につけておくと安心です。
1. 座ったままドローイン(腹横筋)
- 椅子に浅めに座り、背筋を軽く伸ばす
- 鼻から3秒かけて息を吸い、おなかをふくらませる
- 口から5秒かけて細く息を吐きながら、おへそを背骨に近づけるようにへこませる
- へこませたまま10秒キープ(呼吸は止めない)
回数の目安: 5回×1〜2セット。テレビのCM中にもできるので、最初の1種目として取り入れやすい方法です。
2. 座位もも上げ(腸腰筋)
椅子の座面の端を両手で持ち、片方のももを3〜5cmだけ持ち上げて3秒止め、ゆっくり下ろします。左右交互に10回ずつ。高く上げる必要はありません。上体が後ろに倒れないよう、おへそを前に向けたまま行うのがコツです。
3. 椅子につかまって横足上げ(中殿筋)
椅子の背もたれに両手を置いて立ち、片脚を真横に20〜30cm開くように上げます。つま先は正面に向けたまま、2秒で上げて2秒で下ろすリズムで左右10回ずつ。体が横に傾くなら、上げる幅を小さくしてください。
4. つかまり片脚立ち(バランス)
日本整形外科学会が紹介している「開眼片脚立ち」を、椅子につかまる形で行います。床から5cmほど片足を浮かせ、左右1分ずつ、1日3回が目安。最初は指1本で軽く支える程度にし、慣れてきても手は椅子の近くに置いたままにしましょう。
5. 座ったまま背中伸ばし(多裂筋)
椅子に座って両手を太ももに置き、頭のてっぺんを天井から糸で引かれるイメージで背筋を伸ばします。その姿勢で胸を少し前に張り、5秒キープ。5回くり返します。猫背気味の人ほど、終わったあとに視線が上がる感覚がわかりやすい種目です。
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6. かかと上げ下げ(ふくらはぎ)
インナーマッスルとは少し異なりますが、ふくらはぎは「第2の心臓」とも呼ばれ、つまずいたときに踏ん張る力に関わります。椅子の背につかまり、かかとを2秒で上げて2秒で下ろす動きを10〜15回。冷えやすい冬の足元を温める意味でもおすすめです。
頻度と1か月の進め方

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、高齢者に対して筋力・バランス・柔軟性などを組み合わせた運動を週3日以上、筋力トレーニングを週2〜3日行うことが推奨されています。海外のまとめでは、こうした多要素の運動プログラムで転倒の発生が12〜32%少なくなったという報告も。
1か月のステップアップ例
| 時期 | 頻度 | 内容 | 1回の時間 |
|---|---|---|---|
| 1週目 | 週2日 | ドローイン・座位もも上げの2種目 | 約5分 |
| 2週目 | 週3日 | 横足上げ・かかと上げを追加 | 約10分 |
| 3週目 | 週3日 | つかまり片脚立ちを追加して5種目 | 約12分 |
| 4週目以降 | 週3〜4日 | 背中伸ばしを加えた6種目 | 約15分 |
毎日やる必要はなく、「月・水・金」のように曜日を決めておくと忘れにくくなります。実際に続いている人の多くは、朝食後のお茶の時間や、夕方のニュースの前など、生活の中の決まった時間に組み込んでいるようです。
体が温まりやすい時間帯を選ぶ
冬の早朝は血圧が上がりやすく、体もこわばっています。起きてすぐではなく、朝食後30分以降や、室温が20度前後に上がった日中に行うのが安心です。入浴直後は血圧が変動しやすいため、トレーニングは避けましょう。
膝・腰を痛めないための注意点

高齢者のトレーニングで最も大切なのは、「頑張りすぎないこと」です。次の点を守ると、安全に続けやすくなります。
- 呼吸を止めない: 力を入れるときに息を止めると血圧が急に上がります。声に出して数を数えるとよい
- 痛みのある動きはしない: 「少しきついけれど痛くはない」が上限。関節がズキッとしたら中止する
- 膝を内側に入れない: 立って行う種目は、膝が内側に入らないよう鏡で確認する
- 腰を反らせすぎない: 背中伸ばしは胸を張る程度にとどめ、腰を大きく反らないようにする
- 靴下だけで行わない: フローリングで滑らないよう、滑り止め付きの室内履きをはく
中止・相談の目安
胸の痛み、強い息切れ、めまい、手足のしびれが出たときは、すぐに休んでください。高血圧・心臓病・骨粗しょう症で通院中の人、人工関節の手術を受けた人は、始める前にかかりつけ医や理学療法士に相談するのが基本です。
家族がサポートするときのポイント
離れて暮らす親に勧める場合は、電話やビデオ通話で「一緒に1回やってみる」と続きやすくなります。カレンダーに丸をつけてもらい、週末に「今週は何回できた?」と声をかけるだけでも励みになるでしょう。
自宅トレーニングを続けやすくする道具
特別な器具がなくてもできる内容ですが、次のような道具があると安全性と続けやすさが上がります。
滑り止め付きルームシューズ
かかとまで包むタイプの滑り止め付きルームシューズは、トレーニング中だけでなく、廊下やトイレへの移動でも足元を安定させてくれます。スリッパ型は脱げやすいため、かかとがあるものを選ぶのが基本です。価格は1,500〜4,000円ほど。
トレーニングチューブ
座ったまま脚に巻いて開く運動などに使えるトレーニングチューブは、負荷が軽いものから選べます。高齢者は最も弱い強度から始め、慣れたら1段階ずつ上げてください。3〜5本セットで1,500〜3,000円が相場です。
厚手のトレーニングマット
椅子の下に敷く厚手のトレーニングマットは、椅子のずれ防止と床の冷え対策を兼ねられます。厚さ10mm前後で、表面がすべりにくい素材のものが向いています。
シニア向けたんぱく質飲料・プロテイン
食が細くなると、筋力を保つのに必要なたんぱく質が不足しがちです。シニア向けたんぱく質飲料やホエイプロテインは、1杯で約10〜20gのたんぱく質を補える製品が多く、食事の補助として取り入れやすいでしょう。腎臓の病気がある人は、摂取量について医師に確認してください。
道具の比較一覧
| 道具 | 価格の目安 | 役立つ場面 | 選ぶときの注意点 |
|---|---|---|---|
| 滑り止め付きルームシューズ | 約1,500〜4,000円 | 全種目・家の中の移動 | かかと付き・底が薄すぎないもの |
| トレーニングチューブ | 約1,500〜3,000円 | 座位での脚の開閉 | 最弱の強度から始める |
| 厚手のトレーニングマット | 約2,000〜5,000円 | 椅子のずれ防止・冷え対策 | 表面がすべりにくい素材 |
| シニア向けたんぱく質飲料 | 1本約150〜250円 | 食が細い日の補助 | 持病がある人は医師に確認 |
保管については、チューブはゴムが劣化しやすいため直射日光とストーブの近くを避け、使う前に亀裂がないか毎回確認しましょう。たんぱく質飲料は開封後に冷蔵庫へ入れ、その日のうちに飲み切るのが安心です。
インナーマッスルと転倒予防のよくある質問
Q1. 80代からでも始めて大丈夫ですか?
椅子に座ったまま行うドローインやもも上げは、80代以上でも取り組みやすい種目とされています。ただし持病がある人は、始める前にかかりつけ医へ相談してください。
Q2. 毎日やったほうが早く効果が出ますか?
筋肉は休む時間も必要なため、週3日程度から始めるのが基本です。ドローインのような軽い種目なら毎日行っても問題ないと考えられています。
Q3. どのくらいで変化を感じられますか?
個人差はありますが、1〜2か月続けると「立ち上がりが楽になった」「片脚立ちの時間が延びた」と感じる人が多いようです。片脚立ちの秒数を月1回記録すると、変化がわかりやすくなります。
Q4. 膝が痛いときはどの種目を選べばいいですか?
座ったままのドローインや背中伸ばしなど、膝に体重がかからない種目を選びましょう。立って行う種目は、痛みが落ち着いてから再開してください。
Q5. ウォーキングだけでは転倒予防になりませんか?
ウォーキングは体力づくりに役立ちますが、片脚で体を支えるバランスの要素は不足しがちです。歩くことに加えて、片脚立ちや横足上げを組み合わせるとよいでしょう。
Q6. 冬場に外を歩くときの注意点は?
凍結しやすい朝は避け、気温が上がる10時以降に歩くと安心です。靴底に溝のある滑りにくい靴を選び、両手が空くようにリュックを使いましょう。
今週から椅子1脚で始める転ばない体づくり
転倒予防のインナーマッスルトレーニングは、椅子1脚と1日10〜15分、週3日あれば始められます。まずはドローインと座位もも上げの2種目から。1週間続けられたら、横足上げや片脚立ちを1つずつ増やしていきましょう。
滑り止め付きのルームシューズを用意し、家族と回数を共有するだけでも、冬のあいだのトレーニングはぐっと続けやすくなります。春に「去年より足が軽い」と感じられるよう、今週の「月・水・金」から始めてみてください。




































